行政主導による支援体制
神石高原町では、地域の実情や利用可能な福祉資源の状況を踏まえ、行政が中心となってこども施策を推進し、支援体制の構築から運用までを一体的に進めるとともに、実務面でも中心的な役割を担っている。組織体制では、令和2年度に「福祉課」(児童福祉・保育所運営)と「保健課」(母子保健)を統合し、こども関連施策を一元的に所管する「子育て応援課」を設置。女性の就業率が全国平均より高いという地域特性や、家庭状況、こどもの発達段階に応じた支援ニーズの多様化対応している。令和6年度には「こども家庭センターにじいろ」を開設し、包括的かつ継続的な支援体制の一層の強化を進めている。こども家庭センターにじいろは、神石高原版ネウボラの推進拠点となっている。子育て応援課における幼児期および学齢期における特徴的な支援の取組を以下に示す。
幼児期
■個別支援計画書の作成
神石高原町では、町内に児童発達支援事業所が皆無という実情を踏まえ、行政が主体となって乳幼児期の発達支援を補完している。具体的には、3歳児健診の事後支援として、保護者に対して「個別支援計画書」の作成を促し、事後教室における継続的な支援へとつなげている。この過程では、こどもの姿や発達上の課題、成長の様子を保護者と丁寧に共有し、きめ細かく保護者と伴走する形で支援を進めている。
■保育所との定例連携会議
保育所・認定こども園と子育て応援課との間で、月1回の定例連携会議を実施し、こどもの発達状況や家庭環境について情報共有を行っている。子育て応援課が作成した「個別の指導計画シート」は、町内すべての保育園・こども園で統一的に使用されており、入所時からのこどもの様子や保育支援の記録を継続的に蓄積している。これらの情報は、卒園時に個別の保育要録として整理され、就学先の小学校へ確実に引き継がれている。
■5歳児相談(5歳児にじいろ相談)
子育て応援課が所管する5歳児相談は、年中児全員を対象として実施されている。5歳児健診とは異なり、医師による診察や身体測定を行わず、発達面に特化した相談を実施している。相談は、幼児が在籍する保育所・認定こども園を会場として行い、保健師2名、保育士1名、業務委託臨床心理士2名、教育委員会調整監1名、事務職1名の計7名で構成されるチームが担当する。実施の流れは以下の通りである。
図1. 5歳児相談の流れ(神石高原町から聴取した情報に基づき発達障害情報・支援センターにおいて作成)
まず、WEB問診により保護者に対してSDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire/こどもの強さと困難さアンケート)保護者版を実施するとともに、保育士にもSDQ(教師版)を依頼する。それらの分析の結果、必要に応じて発達検査を実施し、又は圏域内(福山市)に所在し医療部門を備えたこども発達支援センターでの受診や発達相談を勧め、就学前相談へとつなげる体制を整えている。また、SDQの回答から、保護者と保育士によるこどもの捉え方の差異についても検討を行い、必要に応じ、保護者への支援にもつなげている。
各家庭への結果通知には、相談当日に臨床心理士が保護者に対して口頭で説明した内容をもとに、「SDQの分析結果」「相談内容のまとめ」「今後の支援方針」の三つの項目を記載している。
学齢期
令和5年度より、子育て応援課が主管課となり、国の「児童育成支援拠点事業」を実施している。この事業の一つとして、町立シルトピアカレッジ図書館の一角に、不登校傾向の児童生徒たちのための居場所を設け、併せて教育相談も実施している。この「居場所」は、もともと教育支援センターとして行われていた事業を基に、さらに内容を充実させたものである。所管する子育て応援課の課長が責任者となっている。不登校や学校での集団参加が難しいこどもの居場所支援を行政の福祉部門で実施しているのは、広島県内において神石高原町のみである。居場所の利用が必要と考えられる児童生徒については、まず「SSW連携会議」(詳細は下記参照)において提案される。その後、学校やSSWとの面談を経て、利用について、こどもや保護者に確認が行われる。こどもは必ず居場所の見学を行う。こどもの「ここなら安心して過ごせる。」等の利用意思確認を経て、子育て応援課がこども一人ひとりについて適した過ごし方を検討し支援計画書を作成する。
利用日は火曜日から金曜日の10時~18時であり、送迎が必要なこどもについては15時までの利用としている。送迎は町役場職員及びSSWが担当している。現在、週1回~4回の頻度で利用している児童生徒は5名で、男児が多く、ほとんどが発達面と家庭環境に課題を抱えている。学年は全て異なり、異学年であることが居心地の良さの一因になっている。
SSW連携会議
経緯
神石高原町にはSSWが1名配置されており、現任のSSWは令和2年度より退職校長が従事している。もともとは、県から派遣されるSSWが不定期に学校を訪問していたが、「神石高原町の小・中学校にはニーズがない」と判断され、派遣が停止された。現SSWが校長として勤務していた当時、「児童生徒の問題が顕在化していないだけであり、ニーズは十分に存在する」と県教育委員会に訴え、自らSSWとして応募した。県のSSWとして採用されたが、県費による派遣では週に3~4校の訪問が限界であったため、町が予算の半分を拠出し、7校ある町内全ての小・中学校を訪問できる体制が整えられた。現SSWが配置された初年度は、週1回教育委員会へ児童生徒の報告を行っていたが、これに加えて子育て応援課へも同様に週1回報告を行うようになった。SSWは教員時代から「教育分野は福祉の視点や知識が十分ではない。こどもや家庭を支えるための福祉との連携に対する意識が乏しい。」という問題意識を持っていた。
2年目には、町の教育委員会の働きかけによって、SSW、子育て応援課・福祉課の担当と係長級職員が集まり、週1回の「SSW連携会議」を開催する体制が確立された。
SSWによる児童生徒の情報収集
年度当初に、発達の課題、生活困窮、養育の困難さ等が認められる児童生徒について、SSW作成の統一フォーマットにてカテゴリーごとにその状況を記載するよう、SSWから各学校長に依頼している。SSWは、全ての学校を週1回のペースで訪問し、記載のあった児童生徒について、校長や養護教諭からの聞き取り、授業中の行動観察、休み時間の担任との立ち話しを通して、その実態を把握している。得られた情報は児童生徒ごとにファイル化し、連携会議に提出している。なお、会議後には配布したファイルをすべて削除するなど個人情報管理は徹底している。町内の児童生徒のうち特別支援が必要と判断されるのは全体の12%である。ただし、まだ支援ニーズが十分に把握されていない児童生徒もいると考えられる。
会議の内容
1回のSSW連携会議では、おおむね20名程度の児童生徒を取り上げている。対象児童生徒の状態はSSWから提示され、こどもや家庭の状況に応じて保護者への連絡が行われる。例えば、生活保護制度の利用が必要と判断された場合はその関係機関に繋ぐ等の対応を図っている。
中学校卒業後も、必要に応じて「卒業生枠」として引き続き連携会議の対象となり、この「卒業生枠」は18歳頃までを想定し、SSWは支援を継続し家庭訪問を実施している。きょうだいが小学校または中学校に在籍している卒業生については、きょうだいへの関わりを切り口として、継続的な支援が比較的容易であるが、きょうだいが在籍していない場合であっても、本人の意向も尊重し、頻度を調整しつつ訪問を継続し、卒業生本人の状況や家庭の様子に関する情報収集を行っている。これらの情報は連携会議に報告され、本人や家庭への必要と判断される支援の糸口について検討する。また、高校卒業時には、若者相談を担う健康衛生課健康係へ引き継ぎを行うこともある。
会議の所感
・教育委員会
個別の情報をより詳細に情報共有を行うことで、早期に適切な手立てを講じることが可能になる。
・子育て応援課
子育て応援課では、乳幼児健診、5歳児相談、および健診後のフォローを所管している。これまでは、こどもや家庭への支援・状況把握が幼児期で途切れていた。しかし、SSW連携会議を実施したことにより、幼児期から中学卒業までのこどもや家庭の状況を継続的に把握できるようになった。このことが途切れることのない支援に繋がっている。
・福祉課
福祉と学校との連携においては、両者の間に温度差が生じる場面も少なくない。こうした状況において、SSWが仲介役として情報を収集し、それを福祉課の事業に活用することができる。例えば、障害のある児童の通所支援や、生活困窮世帯のこどもに対する学習支援などは、適切な情報がなければ家族に勧めることが難しい。学校現場では、教員が保護者に対して事業の利用を勧めることもあり、またSSWが保護者に働きかけることで支援につながることもある。SSWが得た情報をもとに学校を訪問し、教員と協議を重ねることで、支援の方向性が具体化される。
・SSW
校内の教員だけ(担任のみ、あるいは担任と校長のみ)で対応して解決を図ろうとすると破綻しやすく、逆に関係機関へ丸投げしても、こどもや家庭への支援・介入は難航する。特に、不登校児童生徒は、本人やその保護者が支援を望まないことも多く、虐待が関係する場合にはその傾向がさらに強まるため、関係者で情報を共有し、様々なアプローチを検討して慎重に対応していくことが求められることからも、多機関での連携が極めて重要である。
これまで対応した不登校児童生徒の中には、日々の食事が十分に摂れていない、保護者が精神疾患を抱えている、きょうだい全員が不登校となっていた等の事例や、それらの複合的な理由により登校が困難となっていた事例も見受けられた。会議の参加者がそれぞれの知識や情報を持ち寄り、様々なサービスをこどもや家庭に提供することで、こうしたこども達の生活を立て直すことができた。
今後の課題として、「複数体制での取組」が挙げられる。一人のマンパワーに過度に依存する組織は持続が難しく、負担が集中すると限界が生じる。町には資源や人材が少なく、NPO・ボランティア団体は皆無に近い、企業なども限られるが、今後、地域資源をさらに掘り起こしていくことが必要である。
参考図1.神石高原町におけるこども支援のしくみ(神石高原町から聴取した情報に基づき発達障害情報・支援センターにおいて作成)
参考となる自治体資料・HP(アクセス日:令和8年1月30日)
担当窓口:福祉課 障害者生活福祉係 <TEL.:084-789-3335>
掲載日:令和8年3月31日