行政教員の活動と教育・福祉連携の展開
行政教員とは、“学校現場から教育委員会や関連機関へ出向し、教育的専門性を生かしながら業務を担う教員” を指す。仙台市においては発達相談支援センター「アーチル」に多くの行政教員が配属されている。アーチルは、発達障害者支援センターに加え、児童相談所や知的障害者更生相談所を付設する複合施設であり、知的障害の有無にかかわらず、乳幼児期から成人期に至る全ての年齢の方を相談対象としている。相談部門は乳幼児支援係、学齢児支援係、成人支援係から構成されている。相談件数の増加を踏まえ、相談者の利便性も考慮し、平成23年には北部発達相談支援センターに加え南部発達相談支援センターが設置された。
アーチルへの配置の経緯
アーチルに行政教員が配置されるようになった背景には、仙台市における教育・保健・福祉の三分野の長期的な協働の積み重ねがある。仙台市では、昭和54年の養護学校義務化以前の昭和53年に保健・福祉・教育の3部局共同で、アーチルの前身である「仙台市心身障害者相談センター」を設置した。当初より行政教員が配置されており、後のアーチルもそれを引き継いだ形である。さらに、平成23年には教育と福祉のより効果的な政策推進を目的とする課長級の「連絡調整会議」が設置された。同会議では、教育・福祉の双方が抱える様々な課題を共有し、改善に向けた検討や、支援体制整備等のための協議が継続的に行われており、分野間の連携の重要な仕組みとして定着している。
発達障害者支援法も施行され、発達障害についての認知が広まるなか、アーチルへ寄せられる相談が増加、特に学齢期の相談が増加し、そのニーズに対応するため行政教員の配置も拡充してきた。アーチル開設当初は3名であった行政教員は、順次増員され、令和7年度現在では、管理職を含め11名となっている。アーチルに配属される行政教員は、通常の学級、特別支援学級、通級指導など、そのキャリアはさまざまであるが、特別支援教育に携わった経験を持つ教員が比較的多い。なお、これらの取組は、令和6年度に文部科学省が実施した「発達障害のある児童生徒等に対する支援事業」の中の「発達障害のある児童生徒等に対する支援に関する家庭・教育・福祉の連携に関する調査研究事業」の調査対象となっており、事業の成果物である「発達障害のある児童生徒等への支援に向けた教育・福祉の連携事例集」22ページに取組内容が収載されている。
行政教員の業務
アーチルにおける行政教員の業務は、個別相談と訪問支援の二つを主要な柱としている。
1.個別相談
個別相談では、主として保護者への聞き取りは行政教員が担当し、こどもの面接や評価は心理職や作業療法士・理学療法士等が担当している。新規の相談は、2回を1セットとすることを原則としている。初回では保護者とこどもの双方から情報を収集し、アーチル常勤医師を交えたレビュー(検討会議)で、こどもの発達特性等の見立てと支援方針を整理して、2回目のフィードバックへとつなげている。
新規相談の申し込みがあった場合は、管理職である行政教員が、学校や保護者から相談内容、こどもの学年や発達の状況などを詳細に聞き取った上で、総合的に判断して担当者を割り当てている。保護者には学校が作成した「連絡票」を提出していただくこととしている。連絡票とは、校内の特別支援教育コーディネーターが、保護者の同意を得て、こどもの学習・運動・行動面の情報や保護者の所感、こどもの気持ち等を記載したものである。行政教員が学校を訪問し、こどもの様子を直接確認することもある。
2.訪問支援
南北アーチルそれぞれの学齢児支援係に、地域支援担当として、行政教員1名と心理職1名のペアを配置し、これら2組、計4名で学校を訪問して支援を行っている。地域支援担当による訪問支援は、現場でこどもの様子を直接確認することにより、課題の早期把握が可能となり、その場で来所相談の要否や合理的配慮など必要な対応について学校と一緒に考えることができるため、迅速に支援を開始できることが特徴である。
訪問支援により専門相談の必要性の高いこどもの早期発見にもつながり、訪問支援と個別相談との連動が有効に機能している。こうした訪問支援の仕組みは、乳幼児期から学齢期へと支援を引き継ぐ場面にも活かされている。アーチルでは、小学校入学など節目の時期に支援が途切れることのないよう、事前に乳幼児支援係から学齢児支援係へ情報が伝達され、その上で必要に応じ、対象児が入学した学校への訪問を行っている。特に、支援の必要な児童が複数名同じ学校に入学する場合には必ず訪問することとしている。また、就学支援委員会の決定が保護者の希望と異なる場合は、保護者の同意を得た上で、入学時に乳幼児支援係と学齢児支援係の職員が学校を訪問し、これまでの支援経過を就学先の教職員と共有することとしている。
行政教員の育成体制と相談機能強化
行政教員の任期はおおむね3~5年程度である。行政教員専用の育成プログラムは設けてはいないが、OJT(日常的な個別の実践指導)や定期的なミーティング、さらにアーチル職員全員を対象として実施する年間研修等を通じて、能力向上を図っている。特別支援教育コーディネーター研修や通級指導教室担当教員研修など教育部局が実施する研修については、行政教員が講師として参画する場合もある。また、学校からのアーチル現地研修の受け入れ、訪問支援の対象学校が実施する研修の企画協力にも携わるなど、行政教員の役割は拡大している。
一方で、相談ニーズの増加も顕著になっており、その負担軽減のため、令和6年度には北部アーチルに行政教員を2名増員した。また、新規相談の際には、予め学校内で対象児への支援内容を整理していただく観点から、個別の指導計画をアーチルに提出していただくこととしており、これにより相談の効率化や学校での支援の見つめ直しにも繋がっている。学齢期の新規相談では、アーチルでの見立てや支援方針などを記載した連絡票を作成し、保護者に渡すとともに、保護者経由で学校等とも共有している。併せて保護者には、困難の生じやすい場面での有効な支援方法等を行動特性に応じ体系化して記載したリーフレットも渡している。このリーフレットは学校支援システム「C4th」にデータ版が格納され、教職員が必要に応じて閲覧し活用できるようになっている。
行政教員配置による波及効果
アーチルで勤務した行政教員は、その後、特別支援コーディネーターや管理職として学校現場へ戻る場合と、教育委員会の特別支援教育担当部局に異動する場合とがある。
アーチルでの経験により、教育に加えて福祉の考え方の理解も深まり、こうした人材が教育現場において主要な役職で活躍することの意義は大きい。例えば、アーチルで相談員として勤務した教員が学校に教頭として戻ると、校内の情報整理や支援方針の調整が格段に整う傾向が見られる。教頭と特別支援コーディネーターに情報が集まり、相談経験で得た「福祉の視点」を踏まえて、校内のマネジメントが一貫した流れで進むようになる。その結果、校内での支援が確実に実行され、児童・生徒の状況を把握した上で、アーチルへの相談が適切な段階で行われるようになるといった効果がある。教育委員会の特別支援教育担当部署に異動する場合も、アーチルでの相談経験を背景に、現場の実態に即した施策の立案ができるようになるという効果がある。例えば、担任を持たない専任のコーディネーターとして「インクルーシブ推進教諭」の配置に向けた取組を推進した。インクルーシブ推進教諭は、市内の数カ所のモデル校に配置され、近隣校も含めた特別支援教育に係る支援を担うとともに、アーチル等の関係機関との連携を円滑に行うための支援を担う。このように、アーチルで培った視野が、制度設計や施策化に反映されている点は大きな成果といえる。
アーチルでのキャリアは、施策形成に寄与する「構造レベルの改善」と、校内運営を強める「現場レベルの改善」の双方に影響を及ぼす。主管課に戻った教員は制度改革やモデル配置の推進に関わり、学校へ戻った教頭は校内支援の質を高める。教育と福祉の双方を理解した人材が各所で活躍することが、アーチルでのキャリアの大きな波及効果となっている。
なお、アーチルで働く福祉行政職員にとっても、行政教員とともに業務を担うことで、学校教育の考え方の理解が深まるという側面もあり、アーチルへの行政教員の配置は、教育と福祉の双方にとって大きな利益をもたらしているということができる。
不登校のこどもを支えるための教育と多機関連携
教育支援センターの機能・取組と家庭支援
教育支援センターは、不登校児童生徒の通所支援を核とし、保護者支援や学校支援を併せて担う機関である。教育支援センター通所児童生徒は約250人である。フリースクール・放課後等デイサービス通所児は非常に多いと推定されるため、校外で何らかの通所支援を受けている不登校児童生徒数は300人以上に達すると思われる。また、SSR(Special Support Room:校内教育支援教室。仙台市では「別室」「ステーション」と呼ぶ)が、年々多くの学校に設置され、校内の受け皿も大きく広がっている。一方、いずれの機関にもつながらず自宅にいる児童生徒も相当数存在し、教育支援センターは、メタバース事業やオンライン学習(週3回)によって接点づくりを進めている。
令和6年11月には文部科学省の不登校調査で、仙台市の不登校児童生徒が3,000人を超えたことが公表され、社会的に大きな反響を呼んだ。不登校児童生徒の中には、近年増加傾向にある発達障害の診断を受けていたりその傾向にあったりする児童生徒も多く含まれていると推定される。近年は支援者の採用後の研修を重ねるなど専門的知識を備え、特別支援学級在籍児童生徒の受け入れも進んでいる。
教育支援センターは、保護者の同意を得て利用希望のある児童生徒に関する情報共有を行い、利用開始後は、教育支援センターから月1回の通所状況の報告を行うなど、学校と連携して対象児の支援に当たっている。保護者支援の特徴的な取組として、不登校経験のあるこどもの保護者がボランティアで助言を行う「親の会」が挙げられる(月2回土曜日開催)。また、市内在住児に対しては教育支援センターや民間団体への通所にかかる交通費の約半額を仙台市が補助している。さらに、平成14年からは、教育支援センターへの通所ができない児童生徒の家庭訪問の支援を行っている。令和7年度には国の補助金(不登校児童生徒への支援について/教育支援センターの機能強化)も活用して取組を進めている。
不登校児童生徒の増加を背景に、民間から児童生徒の支援を行いたいと声が上がり平成16年、民間企業、市民団体、NPO、行政が共同で「不登校支援ネットワーク事業」が立ち上がった。登校していないこどもたちの少しでも体験の場を広げようと、各企業や団体等によりそれぞれのノウハウを活かした体験活動の場が提供されることとなった。活動内容は稲作体験、プログラミング、動物介在活動、さらに企業での職場体験・見学など多岐にわたる。令和6年のニュースを契機に「支援に関わりたい」という声が急増し、仙台市公園緑地協会が協力を申し出た。また、中央卸売市場、仙台寄席、仙台ロータリークラブなど様々な団体による支援、体験活動や交流の場が一層拡大している。こうした連携により、不登校児童生徒への多様な支援を実現している。令和7年度のネットワーク事業参加会員は19団体3個人(大学教授等の有識者)である。
フリースクール・放課後等デイサービス等との連携事業
フリースクールや放課後等デイサービスに通う不登校児童生徒の増加に伴い、指導要録上の「出席扱い」の相談が増えている。活動内容の多様化を踏まえ、教育支援センターでは年2回(5月・10月)、関係者を集めた情報交換会を10年以上継続して開催している。会場・主催は教育支援センターであり、仙台市に在住する児童生徒が通う民間施設を広く対象とする。情報交換会では5〜6グループに分かれ、「望ましいプログラム」「学校との連携の仕方」などテーマに沿って意見交換が行われている。指導要録上の出席扱いを求めるフリースクール・放課後等デイサービスは、学校へ定期的に活動状況報告を提出しており、電子申請サービスを利用した報告も可能となっている。電子媒体による通所状況報告の流れは図1のとおりである。こうした連携をより明確にするため、仙台市教育委員会と民間団体が「共同宣言」を行っている。

図1.「民間施設連携事業(通級状況報告の流れ)」スライド参照
中学校卒業後の進路への不安を抱えるこどもや家族が多いため、教育支援センターでは、不登校の生徒を受け入れている高等学校やサポート校に協力を依頼し、不登校の生徒に特化した「進路相談会」を実施している。また、中学1〜2年生や小学生を対象にした「フリースクール相談会」も開催しており、フリースクール関係者の参加を得て「進路相談会」と同一会場で行っている。これらの活動の充実のため、教育支援センターとフリースクール・放課後等デイサービスとは、チラシ配布、施設見学、さらに、学校との連携を深めるための合同研修の実施などの協働を積み重ねている。
個別の教育支援計画/指導計画にみられる関係機関との連携
個別の教育支援計画、指導計画作成率向上のための冊子等の作成
教育委員会では、学校現場における個別の教育支援計画及び個別の指導計画の作成率向上を図るため、キャラクターがストーリーに沿って相談しながら学べる漫画形式の冊子「個別の教育支援/指導計画を作って活かすための5つの大事なこと」を作成して、校務支援システム内の書庫に格納し、教職員が容易に閲覧できるようにした。
1.作成までの経緯
仙台市では、市の“特別支援教育推進プラン”に基づいて施策を推進している。平成30年のこのプラン中に、“個別の指導計画”“個別の教育支援計画”の作成率を上げるということが施策の一つとして掲げられていた。作成率の低迷は、特別支援学級在籍児童生徒や通級による指導を受けている児童生徒については作成が義務付けられている一方、通常の学級に在籍する特別な支援の必要な児童生徒については努力義務であることも一因であると考えられる。通常の学級に在籍している児童生徒の保護者から配慮の申し出があった場合の小学校における作成率は、個別の指導計画が30%、個別の教育支援計画が58%であり、中学校では個別の指導計画が20%、教育支援計画が27%であった(図2)。
計画が作成されない理由として、「作成しない」のではなく「作り方が分からない」こともその一因ではないかと考えられた。また、特別支援学校のように多頁にわたり詳細に作成しなければならないという印象が根強く残っている可能性もあった。そこで、教員がより分かりやすく、取り組みやすいイメージを持てるような冊子の作成に至った。
2.冊子について
平成30年度には、「分かりやすい」「これなら作れそう」というイメージを教員に持ってもらうことを目的として、A5版サイズの漫画仕立ての冊子の作成に着手した。キャラクターがストーリーを追いながら相談していく形式とし、より身近に感じられるよう“個別の指導計画”を「個指(こべし)」、“個別の教育支援計画”を「個教(こべきょ)」と略称で示している。編集委員は、美術教師を含む公立小中学校教員、市立特別支援学校教員、発達相談支援センター職員、行政職員で構成された。
冊子の8ページ目には、「必要性の"つ":つかう、つながる、つなぐ」として、家庭、福祉、医療等と連携する意味や意図が示されている(図3)。翌平成31年春には冊子を各校へ配布し、各種研修会や日常の校内会議等での活用を働きかけた。その結果、平成31年度(令和元年度)の作成率は大きく向上し、小学校では個別の指導計画が60%、個別の教育支援計画が86%に、中学校では個別の指導計画が48%、個別の教育支援計画が57%となった。以降の作成率は、小学校では微増傾向にあり、中学校では令和2年度まで急増した後、緩やかな増加傾向にある。この冊子は配布以来、現在も継続して使用されている。なお、この冊子は、仙台市教育委員会特別支援教育課が毎年度テーマを設定して作成している様々な周知用冊子の一つである。
また、仙台市では、特別支援教育の経験がない教員が、初めて特別支援教育に携わる際や、通常の学級で特別な支援を要する児童生徒へ対応する際に活用できるよう、教員向けの教本として「仙台市の特別支援教育(ファイル)」を作成している。このファイルは令和7年度に改訂版を全校配布するとともに、校務支援システム内の書庫に格納し、教職員が容易に閲覧できるようにしている。同ファイルには、個別の指導計画および個別の教育支援計画の作成意義についても改めて掲載されており、詳細は「個別の教育支援/指導計画を作って活かすための5つの大事なこと」にも記載されている。

図2. 通常学級における各計画作成率の推移(仙台市特別支援教育推進プラン2023(本編)より)

図3.必要性の"つ"(冊子「個別の教育支援/指導計画を作って活かすための5つの大事なこと」より)
参考となる自治体資料・HP(アクセス日:令和7年3月25日)
担当部局 : 仙台市健康福祉局障害福祉部北部発達相談支援センター < TEL : 022-375-0110 >
掲載日 : 令和8年4月13日