1.学校と障害児通所支援事業所との連携支援の取組
(1)制度整備と通知の発出
川崎市では、急増する障害児通所支援事業所(放課後等デイサービス等)と学校との間で、より実効性のある連携を構築するため、制度の整備を推進してきた。
健康福祉局障害保健福祉部においては、事業所の役割や学校との関係性についての理解促進を図るべく、平成30年度に『川崎市版放課後等デイサービスガイドライン』を作成した。
その後、児童生徒の障害児通所支援事業所利用の増加に伴い、学校現場から教育委員会に対し事業所に関する問い合わせが増加した。これを受け、令和2年3月、健康福祉局と教育委員会が連名で「川崎市における障害児通所事業所と学校との連携の基本的な考え方」を通知した。この通知には、障害児通所支援事業所と学校との連携の方向性や基本的な考え方、主な連携内容、事業所と学校が相互に訪問する際の留意事項などが記載されている。なお、本通知は令和5年7月に改定されている。
①「障害児通所支援指定に係る開設前説明会」の開催
川崎市では、平成31年4月以降に新規に障害児通所支援(児童発達支援及び放課後等デイサービスに限る)指定を受ける事業者には、「障害児通所支援の指定に係る開設前説明会」(以下「開設前説明会」とする。)への参加を要件とすることとした。
なお、「開設前説明会」は、初めて障害児通所支援に取り組もうとする事業者のみならず、既に運営実績のある事業者が別事業所を開設する際にも、その都度参加を求めている。
② 学校教育への理解醸成
「開設前説明会」は、福祉部局(健康福祉局)に加え、教育委員会の担当者も参加しており、学校組織や教育制度の理解を深める場としても機能している。
教育委員会からは、特別支援教育の理念や学習指導要領に基づく学校の役割、教科指導や自立活動などの教育内容、個別の教育支援計画・指導計画の意義などについて説明が行われている。これにより、事業所が学校教育への理解を深め、学校と連携するための基盤が形成される。
さらに、厚生労働省が示す「保育所等訪問支援」における「直接支援」という用語についても、学校現場では「授業の妨げになるのではないか」といった懸念が生じやすいことから、説明会では、教育活動の妨げにならないよう十分に配慮した上で集団活動に加わって支援するよう丁寧に解説している。このような配慮により、学校側の心理的バリアが軽減され、専門職が教室に入る際の環境整備が進んでいる。
(3)まとめ
令和2年通知で連携の基本的な考え方が示され、「何を、どこまで、どのように受け入れるべきか」といった公的なルールが明記されたことにより、学校現場では、福祉事業所の介入や依頼に対する不安が軽減され、現在では、学校と事業所とが「こどもの最善の利益」という共通の目的に向けて安心して連携に取り組める環境が整いつつある。
事業所側においても、市が示した通知や指針のおかげで学校への説明や協力依頼がしやすくなり、学校との連絡調整等にかける労力が軽減されることで、本来の目的である「こどもへの支援」に注力できるようになった。
連携が進むことで円滑な支援につながった事例を挙げる。放課後等デイサービスを利用する児童が、学校から事業所への送迎車に乗ることを拒否していた。そこで、学校と事業所が速やかにケース会議を開催、児童の心理的背景や家庭・事業所での様子を多角的に検討した。その結果、混みあった送迎車の中で、近くで大声を上げる友人が原因であることが判明、児童は聴覚過敏という特性もあり、不安が高じていた。そのため、送迎車を2便に分けるなどの対応策を講じて、その児童は無事に通所できるようになった。
(1)設立に当たって
①設立の趣旨と背景
川崎市では、発達に心配があるこどもとその保護者が、より身近な地域で相談でき、円滑に支援につながることのできる体制を構築するため、令和3年度から令和6年度にかけて、市内全7区に「子ども発達・相談センター(きっずサポート)」(以下、「きっずサポート」とする。)を設置した。
設立の背景の一つとして、地域療育センターの相談待機の課題がある。川崎市には診療所を有した「地域療育センター」が4箇所設置されているが、相談需要の急増により待機期間が長期化する状況にあった。きっずサポートが「地域における一次相談窓口」としての機能も果たすことにより、地域療育センターの負担軽減につながり、相談待機期間の短縮に資することが期待されていた。
②教育委員会との連携
川崎市健康福祉局総合リハビリテーション推進センターは、きっずサポートの設立に当たり教育委員会学校教育部との間で、およそ2週間に1回の頻度で合同会議を実施し、教育相談機関との役割分担や、広報活動のあり方について検討するとともに、学校現場の視察、学校の管理職や支援教育コーディネーターとの面談を行って情報収集に努めた。
開設に際しては、教育委員会の協力を得て、市内の小学校支援教育コーディネーター会議等で周知を行った。
(2)きっずサポートの業務・実績
①きっずサポートの機能
各区のきっずサポートは、相談支援(市直営)と指定児童発達支援(委託)の機能を有している。18歳未満の発達に心配のあるこどもに関する相談を保護者から受け、こどもの特性に応じた支援方法や適切な福祉サービスを検討するとともに、保護者の同意を得たうえで、保育所・幼稚園・学校などと連携して支援を行っている。また、未就学児については、必要に応じ、きっずサポート内の児童発達支援事業所も併せて利用している。
②相談の流れ
きっずサポートでは、保護者からの直接相談に加え、保育所や幼稚園を通じた相談にも対応している。相談は原則として来所により実施され、保護者及びこどもとの面談により状況を把握した後、保護者の同意を得て通園・通学先の様子を確認する。その上で、「支援方針」を作成・交付し、必要に応じて通園・通学先に対して具体的な対応方法の助言や提案を行っている。
「支援方針」は、保護者が、学校や保育所等と、こどもの特性や必要な配慮などの情報を共有するために活用できるだけではなく、「サービス利用対象証明」として活用することもでき、児童発達支援、放課後等デイサービス等の利用申請を行えるようになっている。
③相談実績と対象層
令和6年度の相談件数は全市で1,633件であった。中原区と高津区の2か所は令和6年10月開設であったことを踏まえると、全区が通年稼働する次年度以降は、相談件数はさらに増加すると見込まれる。 相談者は、全体の約85%が未就学児の保護者で、その中でも、手帳は未取得だが発達が気になるといった段階の相談が多い。学齢児についても、小学1〜4年生が比較的多く、早期発見・早期支援につながる支援機能が発揮できているものと考えられる。
(3)きっずサポートの人的体制と「学校連携推進員」
①専門職による業務体制
きっずサポートの職員には、保健師、心理職、社会福祉職といった保健・福祉の専門職に加え、「学校連携推進員」として教育現場の経験が豊富な退職校長も配置されている。学校連携推進員は4名で、区内7カ所あるきっずサポートを1か所ないし2か所ずつ担当している。
②学校連携推進員について
4名の学校連携推進員については、福祉への理解が深い教職経験者として公募の上配置し、さらに、採用後に福祉に関する研修も実施している。採用した学校連携推進員は、小学校・中学校・特別支援学校での管理職経験を有していた。これらの経験・知識を活かして、福祉側に対しては、学校現場の実態や文化を伝え、また、学校側に対しては、福祉的な視点や考え方を伝えるなど、教育と福祉の「橋渡し役」としての機能を果たしている。
学校連携推進員が実施した支援として、小学校3年生の児童が、友人に手を出してしまったり、教員をからかうような発言が見られたりしたため、学校からの紹介で相談に至った事例を挙げる。学校は、対象児童の自閉症・情緒障害通級指導教室への入級を提案したが、保護者は学校の説明に不満を抱き、入級も当初は拒否していた。そこで、学校連携推進員が保護者、学校の間に立って、双方から聞き取りを行い、学校の提案趣旨等について、保護者への丁寧な説明を行った。その結果、保護者の理解が得られ、通級指導教室への入級が実現した。さらに、学校連携推進員が、保護者に対して、ペアレント・トレーニングを勧めたところ、保護者もそれを受け入れ、結果、家庭生活も安定し、児童は以前より穏やかに学校生活を送ることができるようになった。
このような事例を重ねることにより、学校側からの学校連携推進員への相談も増え、支援の充実が図られている。
(4)地域療育センターとの役割分担と連携
川崎市では、きっずサポートと地域療育センターが役割分担をし、発達・障害特性に応じた相談支援を適時適切に提供できるよう、連携しながら支援を行っている。
きっずサポートは、「発達が気になる」段階からの相談、支援方針の交付、学校・保育所等へ対応方法の助言・提案を担う。その上で、必要に応じ、地域療育センターに繋ぐこととしている。
地域療育センターは、医療機関や区役所からの紹介状があるケース、専門的な評価や医学的診断、継続的な療育を必要とするケースへの対応を担う。(「発達・障害相談の新規受付ルート」参照)
図3 川崎市「発達・障害相談の新規受付ルート」(川崎市提供)
なお、このフローに沿って相談等の対応を図る中で、きっずサポートと地域療育センターを所管する担当は役割分担について検討し、地域療育センターとも調整を重ねながら、個別の状況に応じて、最適な支援先を決定する運用が図られている。
(5)きっずサポートを利用した保護者や保育所からの声
保護者からは以下のような感想があった。
「イライラしてこどもを急かしてばかりだったが、こどもの発達特性がわかったことで、親としての対応を見直すことができた」、「育てにくいこどもだと思っていたが、こども本人も困っていたことに気づけた」、「親の対応を変えたことで、こどもの行動が落ち着いてきた」、「こどものことで悩んでいたが、夫にはうまく伝わらず困っていた。相談を通じて状況を共有でき、理解してもらえたという安心感があった」
また、保育所等への支援に関しては、職員より「人員不足の中で、どう対応すればよいか分からず困っていたので助かった」「今後もいろいろな機会に相談させてほしい」といった声があった。
参考となる自治体資料・HP(アクセス日:令和8年7月3日)
担当部局
- 川崎市教育委員会事務局 学校教育部支援教育課
- (TEL)044-200-3287
- 川崎市健康福祉局障害保健福祉部 障害計画課
- (TEL)044-200-3796
- 川崎市健康福祉局総合リハビリテーション推進センター 企画・連携推進課
- (TEL)044-223-7019
- 川崎市健康福祉局障害保健福祉部 障害者施設指導課
- (TEL)044-200-0082 , 2927
掲載日:令和8年7月22日