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医療・保健

トゥレット症を含むチック症

定義と種類

運動チックとは、突如として起こる、素早くて、ひきつるような運動の繰り返しです。目をパチパチッとすることや目をギューッとつぶることをはじめとする顔面の運動がよく認められますが、首を振る、肩をすくめるなど、全身で起こり得ます。音声チックは、運動チックと同様の特徴のある発声です。咳払いや鼻鳴らしが一般的ですが、「ア」などの声を出すこともあります。時に、単語やフレーズを発することがあり、不適切な言葉を言ってしまうことはコプロラリア(汚言症)と呼ばれます。

特徴
半随意性:チックは行おうとして行っているわけではありません。しかし、一時的や部分的であれば、抑えようとして抑えられることがあり、完全に不随意であるとも言い切れません。

変動性:チックの種類や頻度や強さなどは経過中にしばしば変動します。変動のきっかけが不明で自然な経過とされることもあれば、心理的及び身体的状態に伴うこともあります。不安、興奮、緊張後のリラックス、疲労などで多くなりがちであり、平静、作業への集中などで少なくなりがちです。
前駆衝動をはじめとする感覚現象:チックの前に、ムズムズするとか、身体の中で高まったエネルギーを放出しないとならないなどと感じて、チックが出るとスッキリすることがあり、この感覚が前駆衝動と呼ばれています。感覚現象には、前駆衝動の他に、チックを“まさにぴったり”と感じるまで出してしまうこと、感覚過敏も含まれます。

診断
先に述べた症状により定義される症候群がチック症であり、丁寧な病歴聴取と行動観察から得られた情報に基づいて診断されます。アメリカ精神医学会のDSM-5-TR[1]では、18歳以前に発症したチック症を、チックの持続期間と種類で分類しています。持続期間が1年未満の場合に、暫定的チック症となります。持続期間が1年以上の場合に、持続性(慢性)チック症となり、その中で、多彩な運動チックと1つ以上の音声チックがあると、トゥレット症(Tourette’s Disorder)となります。なお、世界保健機関(WHO)のICD-11におけるチック症の分類も類似していますが、運動チックも音声チックも1つ以上で、トゥレット症候群(Tourette syndrome)となります

併存症
チック症にはしばしば精神疾患が併存し、特にトゥレット症では高率です。代表的な併存症が、注意欠如多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: ADHD)と強迫症(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)です。大切な物を放り投げてしまうとか熱い物を触ってしまうなど、行ってはいけないと思うとかえって行ってしまうというチックと
強迫症状の境目のような症状が認められることもあります。自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)をはじめとしてADHD以外の神経発達症やそれに連続する発達特性もしばしば併存します。不安やうつ、急にひどく腹を立ててコントロールできなくなる“怒り発作”を伴うこともあります。

支援の考え方
チック症のある人(本人)の困難に共感しつつ問題を一緒に整理していきます。その際に、生物-心理-社会的観点と発達的観点を組み合わせることが有用です。チック症には生物学的基盤があり、4~6歳で発症しやすく、慢性化しても10~12歳をピークにして軽快に向かうことが多いとされています。同時に、こころの発達や生活の状況によって、チック症の認識や生活への影響が異なります。それを前提として、チックや併存症などについて本人がどのように感じ、どのようになってほしいかに思いを巡らせて、本人及び家族などの周囲の人々がチック症及び関連することについて理解し、適切に対応して生活しやすくなるように支援します。

家族ガイダンス、心理教育、環境調整
あらゆるチック症の支援の基本であり、これまでに述べてきたようなことを伝えます。チックを本人の特徴の一つとし、些細な変化で動揺しないようにすると同時に、チックの悪化や持続を招いている可能性の高いことがあれば対応を工夫するように勧めます。生活リズムの安定や適度の運動などの基本的な生活の枠組みに留意しつつ、チックがあっても本人らしく前向きに生活することが大切であると伝えます。学校や職場という本人にとって重要な生活の場ともできるだけ認識の共有を図ります。

多職種連携による支援
基本的な対応を行ってもチックに伴う生活の支障が大きい場合には、より積極的な治療のため医療機関の受診が検討されるかもしれません。子どもであれば、まずかかりつけの小児科医、さらに小児神経科医や児童精神科医に相談します。積極的な治療としては、認知行動療法や薬物療法などが考えられます。認知行動療法は、チックを一定程度コントロールすることを目指します。薬物療法については、日本で正式に承認されたチック症の治療薬ではありませんが、抗精神病薬などのエビデンスが世界的に認められています
チックについて学校や職場にどのように説明をするか、どのような環境設定を求めるかの相談を進めることになるかもしれません
。特に、成人では本人の苦痛や周囲の困惑が生じやすく、介入を要するかもしれません。いずれにしても医療や福祉のみならず、心理や教育、当事者・家族を含めた連携が望まれます。

 トゥレット症を含むチック症について、更に詳しくお知りになりたい方は参考文献のスライド資料[2]を参照下さい。

 

東京大学大学院 医学系研究科脳神経医学専攻 総合脳医学講座
こころの発達医学分野 准教授
附属病院こころの発達診療部 部長
金生 由紀子 


【参考文献】
  1. 高橋三郎,大野 裕(監訳). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院,2023.
  2. スライド資料「トゥレット症を含むチック症」,金生由紀子,2024.