支援のプロセス
支援の開始から終結・引き継ぎまでの流れと、機関連携やチームワークについて解説しています。
支援の提供を行うにあたっては、支援を必要とする利用者が主体であることが大前提です。利用者にとって必要な支援を主体的に活用してもらい、支援者は利用者がより良い生活を送れるように支えていくことがポイントになります。そのためには、利用者が自分の生活を自分で決めること(自己決定)を尊重し、利用者の意思決定を支援することが重要です。
利用者のニーズ把握
利用者との信頼関係(ラポール)を形成することが支援の第一歩となります。利用者は必ず何らかの困りごとがあって福祉の門戸をたたきますので、将来の展望がみえず不安を抱えていたり、困りごとの解決方法がわからず途方に暮れていたりなどの状況にあります。初期面接などでニーズ把握を行う際は、以下の点に留意しましょう。
- 利用者の相談には傾聴を心がけましょう
- 利用者の話を肯定的にとらえましょう
- 利用者の不安を和らげる言動で対応しましょう
- 困りごと(課題)を明らかにしましょう
- 対応できる課題かどうか検証しましょう
また、最初の段階で安易に励ましたり、課題の解決を引き受けたりしてしまうと、後々過度の依存や、支援がうまくいかなかったときには利用者の不信を招いてしまう可能性があります。あくまで課題を解決する主体は利用者であることをあらためて確認し、不用意な言動は避けましょう。
アセスメント
アセスメントには「フォーマルなアセスメント」と「インフォーマルなアセスメント」があります。「フォーマルなアセスメント」は標準化された心理検査などをさします。「インフォーマルなアセスメント」は日々の観察や支援者の解釈などをもとにしたアセスメントです。支援計画の策定にあたってはどちらのアセスメントも欠かせないものですが、ここでは「インフォーマルなアセスメント」について概説していきます。
最初に、利用者のニーズ把握の結果を受けて、課題の整理をします。利用者が主張する困りごとだけがニーズとは限りません。利用者本人が気づいていないニーズ、家族や地域など周囲が関係するニーズなどさまざまなニーズが考えられます。課題の整理にあたっては全体の課題と各分野の課題を整理し、優先順位を設定します。優先順位は課題の重要度や緊急度などを目安に検討しましょう。課題の整理表(書式は自由)などのツールを用いて、支援チームで情報共有するときや支援の経過を確認するときなどに活用しましょう。
一方で利用者本人の状態の整理も支援計画策定には不可欠です。本人の障害状況、生育歴、家族の状況など本人を取り巻く環境、得意なこと、苦手なことなどを基本情報として整理しておきましょう。とくに近年では「ストレングスモデル」として、利用者本人の強みやできることを生かした支援が、障害者支援の分野ではスタンダードとなっています。
支援計画の実行
実際の支援にあたるときは、策定した支援計画にそって忠実に実行することが大事です。設定された目標を利用者に無理なく、効率よく達成してもらうことを心がけましょう。以下のポイントを十分に理解して、目標達成に向けた支援計画の実行に取り組むことが重要です。
- 支援者の役割(支援チームでの分担)を明確にしましょう
- 支援チームのリーダーを決めておきましょう
- 支援チーム内で情報を共有しながら、支援の統一をはかりましょう
- 支援のペースやスケジュールは、利用者に確認をしながら進めましょう
- 記録は客観的な内容とし、支援と利用者の行動の因果関係がわかる表現にしましょう
支援計画の評価
あらかじめ決められた時期に目標達成度の評価をします。達成状況によっては支援計画の見直しが必要になるかもしれません。次の項目に基づいて支援計画の評価を実施しましょう。
- 設定された目標の達成度を評価するための情報を、記録などから収集しましょう
- 支援計画策定時の状態と比較してどれだけ変化したかを評価しましょう
- 利用者の意向や環境の変化などを評価しましょう
- 支援計画にそった支援が提供されたかを評価しましょう
- 新たなニーズが発生していないかを確認しましょう
- 評価の分析を記録しましょう
支援計画の改善
評価の結果、目標の達成度が基準を満たさなかった場合や、新たに緊急を要するニーズが発生した場合など、支援計画の改善が必要になります。この場合、利用者にも修正や変更の同意を得る必要があります。以下のポイントを参考に支援計画の改善を行いましょう。
- 目標が達成基準を満たさなかった場合の分析をしましょう
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- 利用者や家族などの要因
- 支援者側の要因
- 事業所などのシステムによるもの
- 分析結果を受けて、必要に応じて支援計画を修正しましょう
- 支援計画の修正・変更について、必ず利用者の同意を得ましょう
支援による成果を効率的にあげるためには、PDCAサイクルの流れで進捗を確認しながら計画的に実践する必要があります。そのためには具体的な支援計画を作成し、チームで実践に取り組み、利用者本人の状態像を記録して、時には計画を見直す必要もあります。支援計画は次の流れにそって策定しましょう。
- 利用者のニーズ(課題)をリストアップしましょう
- それぞれのニーズに対する到達目標を設定しましょう
- 対応する課題の優先順位を利用者と一緒に決定しましょう
- 提供できる支援内容とニーズのマッチングについて検討しましょう
- 支援計画案を作成し、必ず利用者の同意を得ましょう
支援計画の策定にあたっては、利用者の意向を尊重することが重要です。到達目標の設定は客観的な評価が可能で、できるだけ具体的な表現で設定しましょう。また、一足飛びに高い目標を掲げるのではなく、スモールステップを踏んで段階的に最終目標へ導く配慮も必要です。目標達成の評価方法(時期や尺度など)や達成基準も決めておくとよいでしょう。
PDCAサイクルの流れの中で、支援計画に設定された目標が達成され利用者の課題が解決した場合、あるいは何らかの理由で支援の継続ができなくなった場合などには、当該支援計画にそった支援は終結に至ります。以下のポイントを参考に終結に向けた評価を行いましょう。
- 目標が達成されたかを評価しましょう
- 目標が達成されなかったら、どの段階まで達成されたか評価しましょう
- 支援の提供はスムーズだったか評価しましょう
- 支援の提供がスムーズでなかった場合の原因を評価しましょう
- 支援の提供を受けた利用者がどのように変化したか確認しましょう
- 支援の提供を受けた利用者の満足度を評価しましょう
- 当該支援計画のまとめを行い、支援チームと共有しましょう
- 当該支援計画のまとめを利用者にフィードバックするとともに、次の支援に引き継ぎましょう
利用者の課題が解決され支援が終結した後は、利用者が次の段階へのステップアップを望まれる場合があります。同じ事業所を利用される場合もありますし、他の事業所へ移行される可能性もあります。あらかじめ移行計画を策定しておくと円滑に移行することができます。併せて、当該支援計画についても引き継ぎをして情報を共有することで、移行がよりスムーズになるでしょう。
チームワーク
チームワークとは、みんなが同じ考え方で同じ方向・目標に向かって一緒に動いていることをさします。利用者の目標を効率的に達成するためには、支援チームで情報を共有し、一緒に同じ目的に向かって、統一した支援でチームアプローチすることが重要です。次の要件を満たしているとチームワークがとれている状態といえます。
- チームのメンバー全員が共通の目的意識をもっていて、全体として一体感と活気がある
- コミュニケーションが円滑で、葛藤がおきても感情的対立には至らない
- 全員が自分たちの目標を明確に認識しており、責任をもってそれぞれの役割を果たしている
- チームで取り決められたことをみんなが守り、取り決めの決定にも参画できている
- お互いに助け合う雰囲気がある
円滑にチームアプローチを進めるためには、事業所内の支援会議や地域での担当者会議などを積極的に活用して、情報共有に努めることが大事です。
機関連携
同じ事業所内の支援内容だけで利用者のすべてのニーズに応えられない場合は、他の事業者や関係機関との連携が必要になってきます。常日頃から関係機関とのネットワークを構築しておくと、スムーズな連携が可能となるでしょう。利用者を取り巻くネットワークシステムは、「エコマップ」を作成することによって把握することができます。利用者を中心の円に置き、利用者とかかわりのある「人」や「機関」などを周囲の円の中に具体的に書き込み、その円と利用者の円をさまざまな関係線で結びつけることにより、利用者と関係機関などとの関連を表現した図です。「エコマップ」の作成は利用者との関係だけでなく、関係機関同士のつながりを把握することにも活用できます。