自閉スペクトラム症の人は文末にあまり「ね」を使わない (国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

自閉スペクトラム症と対人コミュニケーションにおける終助詞「よ」「ね」の関係

 

 日常会話で主に使われる日本語の終助詞[1]は、言語の中でもかなり早い段階(1歳半〜2歳)で獲得され[2]、人と人とのコミュニケーションにおいてとても重要な役割を持っています[3]。

 例えば、「美味しい」と感想をシェアする、食べたことのない料理を前に不安そうな人に対して「美味しい」と教えてあげる、というように終助詞を使います。いずれの場合も「美味しい」と終助詞を使わずに言うと、ただの独り言なのか、共感を求めているのか、教えてくれているのか、聞き手が意図を掴めずに会話が円滑に進まないかもしれません。一方で、口に合わなそうにしている相手に「美味しい」と言ったり、満足そうに食べている相手に「美味しい」と言ったりすると、相手をモヤっとさせてしまうかもしれません。

 このように、日本語の終助詞は上手に使うことで話し手の意図を伝達し、コミュニケーションを円滑に進める助けになります。しかし、聞き手の知識や感情に配慮して適切に使わないと、意図が間違って伝わったり、相手を不快にさせてしまったりする可能性もあります。 

 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder, ASD)の方は社会的コミュニケーションにおける言語使用が定型発達の方と異なる、ということが指摘されており[4]、比喩・皮肉理解や指示詞などを対象に調べた研究がたくさんあります[5]。日本語の終助詞については、「ASDの幼児は終助詞を使わない」という臨床観察や幼児数名が対象の報告[6] [7]が数例あるだけで、ほとんど調べられていませんでした。そこで私たちは、成人を対象にASDの方と定型発達の方で終助詞使用に違いが見られるのかを調べる実験を行いました[8]。

 私たちは言語学の理論[9, 10]を参考にして、「ね」/「よ」を使うのが自然になるように状況を変化させたテストを作成しました(表1)。そして、調査参加者の方(ASDの方11名、定型発達の方14名)に、自分だったらAさんのセリフをどのように発話するか、口頭で空欄を自由に埋めてもらいました。

 その結果(図1)、ASDの方は定型発達の方よりも終助詞、特に「ね」を使う頻度が少ないことが分かりました。また、定型発達の方は言語学の理論通りに終助詞を使い分けていたのに対し、ASDの方は「よ」が不自然な状況で過剰に「よ」を使っていました。これらの違いは統計的にも有意でした。

 ASDの方が社会的コミュニケーションにおける言語使用に非典型性を見せる、といわれる背後には、今回の実験で見られたような「定型発達の方が終助詞を使う場面で、ASDの方が終助詞を使わない」「定型発達の方が終助詞を使わない場面で、ASDの方が終助詞を過剰に使ってしまう」といった特徴が関係しているのかもしれません。

 私たちは、ASDの方の言語使用の特徴を明らかにすることで、ASDの方の言語教育[7] [11]などに役立つのではないかと考えています。また、定型発達の方とASDの方がお互いの言語使用の特徴を理解して会話場面でのすれ違いを減らす一助になれると考えています。

 

(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 高次脳機能障害研究室       研究生  直江大河 naoe-taiga@rehab.go.jp )

参照文献

  1. Maynard, S.K., Japanese communication : language and thought in context. 1997: University of Hawai‘i Press.
  2. 永野賢, The Development of the Speech of Infants, Especially on the Learning of Zyosi (Postpositions). ことばの研究 = Study of Language, 1959(1): p. 383-396.
  3. Cook, H.M., Sentential Particles in Japanese Conversation: A Study of Lexicality. 1988: University of Southern California.
  4. American Psychiatric Association., Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed). 2013, Arlington, VA, US: American Psychiatric Association.
  5. Tager-Flusberg, H., R. Paul, and C. Lord, Language and Communication in Autism, in Handbook of autism and pervasive developmental disorders: Diagnosis, development, neurobiology, and behavior, Vol. 1, 3rd ed. 2005, John Wiley & Sons Inc: Hoboken, NJ, US. p. 335-364.
  6. 綿巻徹, 自閉症児における共感獲得表現助詞「ね」の使用の欠如: 事例研究. 発達障害研究, 1997. 19(2): p. 48-59.
  7. 佐竹真次・小林重雄, 自閉症児における語用論的伝達機能の発達に関する研究. 特殊教育学研究, 1989. 26(4): p. 1-9.
  8. Naoe, T., T. Okimura, T. Iwabuchi, S. Kiyama, and M. Makuuchi. Pragmatic atypicality of individuals with Autism Spectrum Disorder: Preliminary data of sentence-final particles in Japanese. In Koizumi, M (ed.) Issues in Japanese Psycholinguistics from Comparative Perspectives. (Mouton-NINJAL Library of Linguistics Series). In Press: Berlin: De Gruyter Mouton.
  9. 神尾昭雄, 情報のなわ張り理論: 言語の機能的分析. 1990: 大修館書店.
  10. Maynard, S.K., Discourse modality: subjectivity, emotion and voice in the Japanese language. Pragmatics & beyond: new series. Vol. 24. 1993: John Benjamins Publishing Company.
  11. 松岡勝彦・澤村まみ・小林重雄, 自閉症児における終助詞付き報告言語行動の獲得と家庭場面での追跡調査. 行動療法研究, 1997. 23(2): p. 95-105.

   ※本ページに関連する内容の研究で発表賞を受賞しました。
  社会言語科学会研究大会発表賞(第46回大会)直江 大河 (東北大学) [共同発表者: 南部 智史, 鈴木あすみ, 小磯 花絵, 幕内 充]「日本語母語話者の日常会話における終助詞「よ」「ね」の使用と自閉傾向の関係」