発達障害者の感覚・知覚の特徴 (1)順応やフィルタリングの問題(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

発達障害者の感覚・知覚の特徴について、様々な研究が行われています。様々な研究より、以下の3つの特徴があげられます。

  • 必要のない感覚刺激を無視するのが難しい(順応やフィルタリングの問題)
  • 過去の経験による影響を受けにくい(予測・推定の障害)
  • 感覚刺激同士や空間との結びつけの問題(感覚統合の問題)

このことから、発達障害者の感覚・知覚の特徴のひとつとして「入ってきた感覚情報が、忠実に意識に上りがちである」と言えるのではないかと考えています。それぞれの特徴や対処法について、シリーズでご紹介できればと考えています。

今回は、まず「順応やフィルタリングの問題」について紹介します。

1.順応の問題

自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder, ASD)をはじめとする発達障害の方には、苦手な音があったり、ざわざわした環境で疲れを感じたりといった感覚過敏が多く生じることが知られています。感覚過敏をはじめとする感覚の問題の原因は、完全に解明できているわけではないのですが、「必要のない感覚刺激を無視するのが難しい」といった具合に、感覚信号の調整の問題が関係していると考えられます。

実際、ASD者では、感覚刺激に対する「なれ」が生じにくいことが知られています。例えば、部屋に入ったとき、換気扇の音が気になることがあるかもしれません。しかし、音に対する感覚過敏のない人の場合、やがて全く気にならなくなり、作業や会話に集中できるようになります。触覚や嗅覚も同様で、チクチク感じていた服のタグや、はじめは違和感があった臭いも、やがて「なれ」が生じて、たいていの場合は気にならなくなってしまいます。これを「順応」と呼びます。ところが、順応が起きにくい場合は、これらの刺激を無視することが困難になってしまうと考えられています。つまり、不要な感覚刺激が意識に上ってしまうことで、注意を向けるべき対象に注意が向かなくなったり、疲れを感じるようになったりしてしまうのです。研究において、ASD者では、音に対する順応が生じにくいことや(Gandhi et al., 2021)、嗅覚の順応が遅いことが報告されています(Kumazaki et al., 2019)。さらに、視覚についても、ASD者では、目に光があたってから瞳孔が収縮するまでの時間が、より長いことが知られています(Fan, Miles, Takahashi, & Yao, 2009)。この光に対する反射は、副交感神経と呼ばれる自律神経を介した調整が行われており、瞳孔が大きく開いている間は、より多くの光が網膜に届くことになるので、眩しさにつながると考えられます。

 

2.感覚フィルタリングの問題

多くの感覚情報の中から、特定の感覚信号を取り出すことに関する問題も指摘されています。例えば、ある人と話しているとき、窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえてくることがあるし、別の人が別の話をしていることがあるかもしれません。そんなときにも、ある人との会話に集中していれば、多少の雑音は気にならなくなるとされています。ところが、ASD者の多くでは、周囲の音が気になってしまい、会話に集中できず、聞き取りが難しくなってしまうことが多いようです(選択的聴取の困難)。このように聴力に異常がないにも関わらず聞き取りが難しい状態を聴覚情報処理障害(auditory processing disorder, APD)と呼び、発達障害の方で多く見られることが知られています(小渕千絵, 2015)。また、そのようなザワザワとした環境(刺激の多い場所)では、しばしば疲れてしまうことが多いようです。

研究では、音に対する応答の変化を評価します。最初に音を聴かせた後に、次に大きな音を聴かせると、音に対する反応(驚愕反応)が低下するという現象が起こります。この現象をプレパルス抑制(pre-pulse inhibition, PPI)と呼び、感覚調整機能を実験的に評価するときに広く使われています(Swerdlow, Weber, Qu, Light, & Braff, 2008)。統合失調症では、プレパルス抑制が生じにくいなど、様々な精神疾患のバイオマーカー(疾患の有無や、病状の変化などの指標)となりうると考えられているのですが、ASD者では、一定した結果が得られておらず、さらなる研究が必要とされています(高橋秀俊 et al., 2015)。一方、動物を用いた研究では、視覚刺激と聴覚刺激のどちらかに注意を向けさせるような課題において、脳の前の方の領域(前頭前皮質)の神経細胞が、視床網様核という領域に働きかけて、視覚と聴覚のどちらに注目するかの調整を行うことがわかってきました(Nakajima, Schmitt, & Halassa, 2019)。ADHDの特性を持ったマウス(PTCHD1遺伝子欠損マウス)では、この調整がうまくいかないことが報告されており、感覚フィルタリングの問題との関連が注目されます(Nakajima, Schmitt, Feng, & Halassa, 2019)。実際に、ヒトでも同じメカニズムが関係しているかは、さらに研究を進めていく必要がありますが、感覚刺激が無選別に意識に上ってしまうことが感覚の問題に関係していそうです。

 

3.感覚への鋭敏さ

これまで紹介した順応やフィルタリングの問題に加えて、感覚の鋭敏さそのものが感覚過敏につながる可能性もあります。

触覚に関していえば、鋭敏さが感覚過敏につながる証拠がいくつか見つかっています。例えば、どれくらい細かい刺激までわかるかを実験的に調べることができますが、ASD者では、腕に与えられた触覚刺激について、より細かい振動まで検知できることが報告されています(Cascio et al., 2008)。このことは、服のタグなどから加わる触覚刺激に対してより鋭敏なため、「チクチクしている」と感じやすい可能性を示しています。さらに、ASD者の中で感覚過敏が強い人では、指先に与えられた触覚刺激の順番をより正確に区別できることも報告されています(Ide, Yaguchi, Sano, Fukatsu, & Wada, 2019)。したがって、どの程度細かい刺激まで敏感に感じられるかだけではなくて、刺激の時間的変化に鋭敏であることも触覚過敏に関係しているのかもしれません。

 

Cascio, C., McGlone, F., Folger, S., Tannan, V., Baranek, G., Pelphrey, K. A., & Essick, G. (2008). Tactile perception in adults with autism: a multidimensional psychophysical study. J Autism Dev Disord, 38(1), 127-137. doi:10.1007/s10803-007-0370-8

Fan, X., Miles, J. H., Takahashi, N., & Yao, G. (2009). Abnormal transient pupillary light reflex in individuals with autism spectrum disorders. J Autism Dev Disord, 39(11), 1499-1508. doi:10.1007/s10803-009-0767-7

Gandhi, T. K., Tsourides, K., Singhal, N., Cardinaux, A., Jamal, W., Pantazis, D., . . . Sinha, P. (2021). Autonomic and Electrophysiological Evidence for Reduced Auditory Habituation in Autism. J Autism Dev Disord, 51(7), 2218-2228. doi:10.1007/s10803-020-04636-8

Ide, M., Yaguchi, A., Sano, M., Fukatsu, R., & Wada, M. (2019). Higher Tactile Temporal Resolution as a Basis of Hypersensitivity in Individuals with Autism Spectrum Disorder. J Autism Dev Disord, 49(1), 44-53. doi:10.1007/s10803-018-3677-8

Kumazaki, H., Muramatsu, T., Miyao, M., Okada, K. I., Mimura, M., & Kikuchi, M. (2019). Brief Report: Olfactory Adaptation in Children with Autism Spectrum Disorders. J Autism Dev Disord, 49(8), 3462-3469. doi:10.1007/s10803-019-04053-6

Nakajima, M., Schmitt, L. I., Feng, G., & Halassa, M. M. (2019). Combinatorial Targeting of Distributed Forebrain Networks Reverses Noise Hypersensitivity in a Model of Autism Spectrum Disorder. Neuron, 104(3), 488-500 e411. doi:10.1016/j.neuron.2019.09.040

Nakajima, M., Schmitt, L. I., & Halassa, M. M. (2019). Prefrontal Cortex Regulates Sensory Filtering through a Basal Ganglia-to-Thalamus Pathway. Neuron, 103(3), 445-458 e410. doi:10.1016/j.neuron.2019.05.026

Swerdlow, N. R., Weber, M., Qu, Y., Light, G. A., & Braff, D. L. (2008). Realistic expectations of prepulse inhibition in translational models for schizophrenia research. Psychopharmacology (Berl), 199(3), 331-388. doi:10.1007/s00213-008-1072-4

高橋秀俊, 石飛信, 原口英之, 野中俊介, 浅野路子, 小原由香, . . . 神尾陽子. (2015). 自閉症スペクトラム障害児における聴覚性驚愕反射の特性とエンドフェノタイプ候補可能性の検討. 日本生物学的精神医学会誌, 26(2), 103-108.

小渕千絵. (2015). 聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)の評価と支援. 音声言語医学, 56, 301-307.

 

国立障害者リハビリテーションセンター研究所

脳機能系障害研究部 発達障害研究室長 和田真(wada-makoto@rehab.go.jp