医療・保健
自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症は、人生早期から社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応において持続的な困難があること、行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が認められる神経発達症の一つです。成長とともに、感情のコントロールができるようになったり、社会的スキルを身につけることによって、自閉スペクトラム症の特性やそれに伴う困難が軽減することもありますが、基本的には生涯にわたってその特性はみられます。注意欠如多動症、限局性学習症、協調運動症、トゥレット症など他の神経発達症、うつ病、双極症、強迫症、不安症群などの精神疾患を伴う人もいます。
自閉スペクトラム症の原因は、遺伝と環境の相互作用とされています。複数の遺伝子、両親の年齢、低出生体重、低酸素、鉛暴露、妊娠中の母体感染症などの多様な要因が関係しており、子育ての結果によるものではありません。自閉スペクトラム症の状態像は、年齢によって異なります。
ライフステージごとにみられる状態
自閉スペクトラム症の乳幼児には、目と目を合わせる、指さしを行う、微笑み返す、後追いをする、模倣をする、人見知りをするなどといった社会的行動が弱かったり認められなかったりすることがあります。また抱っこを好まず、寝かしつけに苦労する、食べてくれる物が極端に偏っている、自分のやり方にこだわり融通が利きにくいなど、子育ての難しさを抱えることがあります。言葉の発達においては、始語が遅い場合から言葉の発達に遅れのない子までさまざまです。
保育所や幼稚園に入ると、集団保育の場面での遊びには参加したがらない、時には保護者との分離が難しい、友達との適切なやりとりが難しい、給食では特定の食べ物しか口にしないことで気づかれることがあります。話し言葉が見られても、一方的になりやすく相手の発言に耳を傾けることや尋ねられた事柄に答えられなかったりします。また、電車、ミニカー、特定の絵本、タブレットなど興味のあることには熱中しやすく知識も豊富です。基本的に初めてのことや予め決まっていたことを変更されることは好まず、環境になじむのに時間がかかることがあります。
学童期には、一斉授業の中で担任の話を聞く、クラス全体に出された指示に従う、班活動など社会集団行動が増えそうした活動への参加に苦痛を感じることがあります。授業や宿題では、学年が上がるにつれ、読む、書く、計算をするなどの学習上の難しさが明らかになるお子さんもいます。
思春期になると、適応のための対人スキルがより複雑になり学校生活につらさを感じたり、いじめなどの被害に遭っても家族、先生、友達にうまく相談できないこともあります。そのため、本人の精神的な疲労のわずかなサインを周囲の大人が気づくことが大切です。
就職してから仕事が臨機応変にこなせないことや対人関係などに悩み、家庭生活や子育ての悩みを抱えることでうつなどの精神的不調が増し病院を訪れる人もいます。福祉的サポートを受けることで生活がしやすくなることがありますし、医療により支援が有効なこともあります。
支援について
幼少期には、療育を通した小集団や個別における日常生活スキルの獲得やコミュニケ―ションスキル等の発達を促していきます。併行して養育者の心理的サポートや子どもの特性理解とより好ましい関わり方を身につけていくための支援を通し、良い親子関係が育めるような支援をしていきます。
学校では、特別支援教育とともに、放課後デイ、移動支援などの福祉的支援が活用されています。近年では高等教育への支援も拡大しており、学生相談室に加えて、障害学生支援室における支援を提供している大学も認められます。また、発達障害者支援センターや地域生活支援センターなどでは、幅の広い相談、就労や生活自立の支援や情報を提供しているほか、障害者職業センターでは職業能力評価、ワークトレーニング、ジョブコーチの派遣等も行っています。
医療機関では、診断ならびに特性に応じた支援の一部が行われていますが、なかには薬物療法が実施されることもあります。しかし、現状において自閉スペクトラム症を根本治癒する薬物療法はなく、かんしゃく症状などへの易刺激性に対する抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾール)の投与、睡眠障害に対するメラトニンの投与、そのほか、てんかんや精神症状等に対する薬物療法が実施されています。
奈良県立医科大学精神医学講座 教授
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部 客員研究員
岡田 俊