余暇とは
発達障害のある方の余暇とは
発達障害に限らず、何かしら障害のある方たちの余暇とは、就労、学習、文化、スポーツなどと同様に社会参加の一つであり、自立の基礎となり得るものです。生活の質(QOL)を考えるとき、仕事のようにある一定の決められた時間以外の生活、余暇時間の過ごし方についても充実していることが大切です。しかし、そのような余暇の過ごし方について、ひとりで探したり、実行することが難しかったり、偏りがあり過ぎたり、あるいは反社会的なことへの興味に向けられたりすることも、発達障害のある方の中には、時折見受けられます。
子どもの場合
子どもの発達過程において、幼児から低学年時期に一つのことに興味をもち、大人顔負けの知識を身につける子もいるかと思います。発達障害のある子の中には、それがさらに狭く深く、極端な場合があります。その状況は発達のその後の段階で薄れていくことが多いですが、ライフワークや仕事になる場合もあります。いずれにしても、親や大人は子どもの興味を受け止めていく気持ちが必要です。子どもの興味、とくに発達障害の子の興味は、大人にとってはあまり歓迎できるものではないことも多いかもしれません。それでも、子どもがみつけた興味は尊重して受け止めてほしいのです。
たとえば、3歳のA君は、テレビやDVDのあるキャラクター怪獣が大好きです。すべての怪獣を覚えていて、基本の怪獣の進化後の怪獣名も全部言い当てるほどです。A君のお母さんは、「怪獣ばかり知っていても何の役にも立たない」と歓迎していないようです。しかし、A君は年齢があがっていくうちに、恐竜、その他の動物、昆虫の進化や変態にも興味をもち、名前だけでなく、その生態を知りたいと思うようになりました。A君のお母さんは、今度はとても嬉しく思いました。
大人の歓迎できない思いだけで、最初の興味を修正していたらA君はどうなっていたでしょう。大人が子どもの興味を受け止めることは、本人の肯定感を育てます。積極的な気持ちをもてるようになり、その後の余暇にもつながります。
子どもの興味は、さまざまです。何に興味をもっているかを、注意深くみましょう。本人あるいは他人を危険に巻き込むことや周りの環境を脅かすものである場合は、気をつけなければなりません。他に認めてあげられそうな興味があれば、それを受け止めましょう。他にない場合には、いろいろな環境を提供し、経験を広げていきましょう。3歳以上になれば、子ども同士が遊べる場所が必要です。幼稚園、保育園はとても興味の広がる場所です。しかし、これも大人の都合で決めては逆効果です。発達障害のある子は、大勢が苦手だったり、人に触れられることが嫌いだったりすることが多いです。個々の発達や特性に合わせて、児童発達支援事業所や児童発達支援センター、放課後等デイサービスなどの療育的な場も必要かもしれません。
大人の場合
就学して高学年、思春期あたりから、興味の示し方は変わってくると思います。発達障害のある方も、それまで育ってきた環境が大きく余暇の興味や活動に影響してきます。また、親が理想とする余暇と本人が求める余暇には、ますます差が生じてきます。親や大人の姿勢は、基本的に子どもの場合と同じで、興味に対して肯定的に受け止めていくことが大切です。そして、受け止めるのが厳しい場合は、他の興味へと向けさせたいところですが、子どものときよりも難しくなります。学齢期であれば、学校という場で友達やその他の大人とのやり取りの中で興味を広げていきやすいのですが、コミュニケーションが苦手だったり、接触が嫌だったりすると、興味を表に出せなくなり、不登校やひきこもりなどの状況も引き起こしてしまいます。
学校、職場やデイケアなど、ほかの人と一緒に過ごしている発達障害のある方は、多少、人とのくい違いがあったとしても、周りの理解のもとで余暇をみつけられると思います。ただ、みつけられたとしても、実行に移すにはまわりの支援が必要かもしれません。
たとえば、OLのBさん(自閉スペクトラム症)は、あるとき同僚Cさんに誘われて、会社近くのヨガサークルに連れて行ってもらいました。楽しそうなBさんの様子に同僚は「また来たいなら入会手続きしてね」と言って、入会申込書を渡してくれました。Bさんはとても興味をもち、通いたいと思いました。その後、同僚たちは通っていたのですが、Bさんは行くことができませんでした。
しばらくして、ある同僚から、「なぜ来ないのか」と尋ねられて、同僚がていねいに話を聞くと、まず、最初に同僚Cさんと行ったので、同僚Cさんが誘ってくれないと行けないと思っていた。そして、申込書の書き方がわからないでいたとのことでした。誰もがあたりまえにできると思われることが、普通の生活を送れていても、いつもと違うと難しくなるなど、実行機能が低い人もいます。同僚がもう一度尋ねてくれなかったら、Bさんはずっと行けないままだったかもしれません。
発達障害のある方にとって、余暇活動を定期的な生活の一部にしていこうとしても、興味・関心だけでは、なかなか結びつかないことが多いです。興味の範囲が狭いこともありますが、生活の一部として取り入れることが苦手な場合もあります。実行するまでと定着するまでの行動を一つひとつ支援していくことが大切です。
知的障害をともなう発達障害のある方
余暇への興味の広げ方は、基本的に「子ども」や「大人」の場合と同じです。子どものころは知的障害もあるので、その認知段階によっては粗大運動を中心とした遊びが好きだったり、本来の玩具の用途とは別の遊び方をしたりするかもしれませんが、大人は一つひとつ子どもが示す興味を受け止めて、その発達と情緒面に合わせて、できるだけひとりでの遊びと人と一緒の遊びを増やしていくことが大切です。年齢があがるにつれて、内容はさまざまですが、興味の広がりが出てきます。それによって、学齢期や大人になってからの仕事(作業)や余暇への取り組みが容易になります。
知的障害をともなう発達障害のある方にとって、活動に参加するための大きな問題として、認知段階にもよりますが、活動場所に行くまでの移動があります。ひとりの場合、少しでも興味があるものをみつけると寄り道してしまい、行けなくなることもありますので、支援者の案内が必要です。このような場合に、障害者総合支援法において、「行動援護」という移動の支援があります。詳しくは、以下を参照してください。
- 行動援護(厚生労働省)
発達障害のある方の余暇は、その人の状態や特性により、一般のサークルや趣味の活動の場が適していることが多いです、また、とても高度でプロに近い趣味の集まりは、発達障害のある方のよりどころとなる場合もあります。
発達障害のある方の余暇活動に関しての相談は、「相談」の項目をご参照ください。