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トピックス

お薬との付き合い方

発達障害のある方が「お薬」を服用していることは少なくありません。いまだ発達障害を根治させる薬はありませんが、日常生活の困難を改善させる可能性があるのであれば、あらゆる治療の選択肢を考慮したいと思うでしょう。しかし、その一方では、薬を服用することへの不安もあると思います。お薬とつきあいをするコツについてお伝えします。

 

1.何のために薬物療法が考慮されているのかを知りましょう
薬物療法の目的はさまざまです。発達障害そのものを根治させる薬物療法はありません。注意欠如多動症の場合には、不注意、多動性-衝動性を軽減することができ、日常生活での困難を改善することが可能です。しかし、薬物療法を実施したとしても、環境調整や日常生活の工夫を継続することが必要です。自閉スペクトラム症の場合には、かんしゃくや強いこだわりを軽減するために、抗精神病薬と呼ばれる薬剤を使用することがあります。しかし、薬物療法を実施したとしても、療育的なアプローチは継続する必要があります。当事者にとって、見通しを持ち、安心して過ごせる環境は何よりも大切ですし、自分の思いを伝えることのできるコミュニケーションの支援も同じく大切で、これこそが根本的な対応だからです。また、発達障害には、てんかんであったり、精神の不調を伴い、これらに対して薬物療法が実施されることがあります。
薬物療法は、当事者自身、あるいは、周囲の方が何らかの困難を感じ、その困難の軽減のために薬物療法が有用であるという場合に提案されます。しかし、医師が解決可能と考えた困難と、当事者や家族の感じる主たる困難は異なることがあります。薬物療法が効果を上げていたとしても、当事者や家族は困難が一つも解決しないと感じることもあり、さらに薬が増量されたり、漫然とした治療が継続することがあり得るのです。薬物療法によって、何が改善できるのか、効果の限界はどこか、ということをまず十分に話し合っておく必要があります。

 

2.薬物療法によってもたらされるデメリットを知りましょう
精神科の薬は「こわい」とか「始めたらやめられない」などという怖さを感じている場合も多いようです。精神科の薬に限らずどんな薬にも副作用があります。ですから、ことさら精神科の薬剤だけが恐れられる理由はないのですが、身近な病気の治療薬と違って、どこか縁遠く感じられたり、薬の依存性が懸念される薬剤もあることが不安の原因ではないかと思います。確かに数日間服用して効果があり中止できるという薬はありませんが、飲み始めたら止められないというのは正確ではありません。医師は、その治療を継続することのメリットとデメリットを常に確認しながら、服薬継続の要否を相談します。ただ、薬を中止するときには、ゆっくりとやめていく必要がある薬もあります。自分だけで中止せず、医師と相談しながら進めていくことが大切です。

 

3.薬の効果と副作用をモニタリングしましょう
どのような症状を改善するために薬を利用するのか、ということについて共通認識がないと、医師、当事者、家族の効果のイメージはバラバラになってしまいます。また、症状がよくなると、さらによくなりたい症状がみえてきます。治療の過程は、常に動いていくものですので、どのような症状がどの程度よくなったのか、ということは意外にわかりにくいものです。そのようなとき、症状のチェックリストを使用する方法があります。症状のチェックリストは、ご本人がつけるもの、医師が問診によってつけるもののほかに、養育者が評価するものや学校の先生が評価するものもあります。しかし、その一方で、これらの症状は、薬の効果が現れる症状という本人の困り事の一つに過ぎません。ですので、ざっくりとした意味で薬を飲む前と比べてどうなのかを把握することも大切です。
副作用の把握には、医師との細かなコミュニケーションが大切です。また、血液検査、心電図検査などが必要なときもあります。しかし、子どもの採血は、血管が細いので、技術的にも大人に比べて難しいのですが、子どもさんも採血が嫌いです。ですので、つい実施しないままになってしまうことが起こりえます。でも、子どもさんは熱を出したりして、採血の機会も多いもの。そのときは結果を主治医とシェアするといいでしょう。

 

4.薬のやめどき
精神科の病気の治療においては、薬物療法を長く続けるほうが良い場合もあります。発達障害の治療においても、長い間、薬物療法を続けることもあります。しかし、薬物療法が根治的でない以上、薬物療法以外の方法で対処できるようになったら、成長したあかし。薬物療法のやめどきを模索することも可能かもしれません。そんなときは勝手に減らしてみるとか、止めてみるとかではうまくいきません。それは当事者や家族の思いで減らすと不安になって調子を崩してしまう可能性がありますし、薬を減らすにしても、試しても良いタイミング(たとえば、症状の安定しているとき、日常生活の変化の少ないときなど)と減らし方(どの薬からどれぐらいのスピードで減らしていくか)があるのです。
一方では、薬に頼っていてはだめだ、と焦ってしまう方もあります。薬物療法を使用することは決して悪いことではありません。薬物療法をしながらも、他の取り組みを遭わせて行っていくことこそが大切なのです。もし治療の継続に不安があったら、主治医と相談してください。

 


奈良県立医科大学精神医学講座 教授
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部 客員研究員
岡田 俊