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トピックス

発達障害者の感覚の問題(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

発達障害者の「感覚の問題」とは?

 発達障害の方の中には、大きな音やまぶしい光、チクチクとした肌触りの布が苦手だったり、騒がしいところでの聞き取りが難しかったりするといった感覚の問題を持つ方が多数いらっしゃいます。発達障害のうち、自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder, ASD)は、社会的なコミュニケーションの問題や行動の反復などが主な障害特性とされていますが、実に60~90%の方が、このような感覚の問題を持っていることが知られています[1; 2]。米国精神医学会の診断マニュアル(DSM-5, 2013)では、診断基準の一つに、感覚の問題が加えられています。

なお、注意欠如多動症(Attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)や学習障害(Learning disorder, LD)などの他の発達障害とASDの間では、診断が重なることもあります。感覚の問題は自閉スペクトラム症以外の発達障害でも生じることが示されています。例えば、自閉スペクトラム症と注意欠如多動症の間で感覚の問題の共通性が見られることが報告されていますし[3]、学習障害のうち難読症の一部の方では、顕著な視覚過敏が合併することが知られています[4]。

 

どんな感覚の問題?

 発達障害の方がもつ感覚の問題の多くは、音(聴覚)の問題です[5]。具体的には、聴覚過敏と呼ばれる苦手な音(環境)の存在が代表的です。例えば、太鼓とか運動会のピストルの音のような突発的な大きな音などに加えて、甲高い叫び声や換気扇の音など特定の音を苦手と感じることが多いようです。さらに、駅の雑踏のように様々な音が耳に入ってしまい集中できない、人の話し声を聞き取るのが難しいといった困りごとがあることも知られています。

感覚の問題は、音の問題だけではありません。例えば、眩しい光が苦手でサングラスが手ばなせなかったり、点滅する光を苦手と感じることもあるようです。たくさんのネオンや看板等で注意が妨げられたりする視覚過敏もあります。さらに、服のタグや特定の素材をチクチクと感じてしまうような触覚過敏も知られています。私ども国立障害者リハビリテーションセンターで実施した感覚の困りごとに関するオンラインアンケートでも、最もつらい感覚の問題として聴覚過敏の問題が上位を占めており、さらに自閉スペクトラム症の方では、触覚過敏の問題も大きいことが示されています[6]。他にも、苦手な臭い(嗅覚過敏)や味の問題(味覚過敏)、身体の問題(固有感覚・前庭覚の問題)など様々な感覚の問題が知られています。

さらに、暑さ寒さを感じにくく、適切な服選びができなかったり、痛みに対する反応が弱く、肌をかきむしってしまったりするといった問題も知られています。これらは、感覚鈍麻といって、むしろ特定の感覚刺激を感じにくいことで生じる感覚の問題の一種です。

 

感覚の問題の評価

 感覚の問題について、例を挙げて紹介しましたが、その現れ方は多種多様で個人差も大きく、人によって出方が大きく異なります。支援を考えるうえでは、適切に評価し、個人の特徴を明らかにすることが重要です。

そこで、感覚の問題を、感覚刺激への感じやすさ(感じにくさ)と、それに対する活動性の大きさ(小ささ)によって評価する試みがあります[7; 8]。感覚刺激を感じやすく、それを避けようとする活動が活発な特徴を「感覚回避」、同じく、感覚刺激を感じやすいけれども、避けようとする活動が低いような特徴を「感覚過敏」と呼びます。例えば、苦手な音を避けるために手で耳を覆うようなしぐさをするのは、感覚回避に相当しますし、いろいろな音が流れている場所では気が散ってしまい集中できなかったり疲れてしまったりする状況は感覚過敏に相当します。広い意味では、これらのように感覚刺激が過剰に感じられてしまう状態を「感覚過敏」と扱います。 

一方、感覚刺激を感じにくい特徴が表れることもあります。感覚刺激を感じにくく、それに対する応答も少ない特徴を「低登録」(感覚鈍麻)、同じく、感覚刺激を感じにくく、それを求めるような活動が盛んな特徴を「感覚探求」と呼びます。例えば、話しかけたり、名前を呼んだりしても、なかなか反応がない状態は低登録(感覚鈍麻)に相当し、食べ物でない物のにおいをかぎ続けたり、特定の音を好んだり、その音を出そうとしたりする行動は感覚探求に相当します。

 このような感覚の問題を評価する質問票のひとつに「感覚プロファイル」があります。「感覚プロファイル」では、感覚刺激に対する感じやすさと、対象者の活動性の高さの2軸により、それぞれ「感覚過敏」、「感覚回避」、「低登録」(感覚鈍麻)、「感覚探求」という区分(図1)に分けて評価します。同じ対象者でも、感覚に応じて、この出方が変化するのが特徴です。これを明らかにすることで、感覚の問題を評価して、支援につなげることができるようになります。

図1 「感覚プロファイル」での感覚の特徴

 

感覚の「問題」だけか

 今回は、発達障害、特に自閉スペクトラム症の方の多くが直面している感覚の問題について紹介しました。日常生活上の問題となることから感覚の問題が注目されていますが、発達障害の方が持つ感覚の特徴はそれだけではないことに注意する必要があります。例えば、ある状況下では、感覚過敏として困りごとになる一方、その感覚特性が、鋭敏さとして特技になり得る状況下も考えられますし、特技でも困りごとでもない中立的な特徴にとどまることもあり得ます。発達障害当事者へのサポートを考えるうえでは、感覚の特徴も踏まえた包括的な理解が重要であるといえ、さらなる研究が必要だと考えています。

 (国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 発達障害研究室長 和田真  [E-mail]wada-makoto@rehab.go.jp) 

   

[1] E.J. Marco, L.B. Hinkley, S.S. Hill, and S.S. Nagarajan, Sensory processing in autism: a review of neurophysiologic findings. Pediatr Res 69 (2011) 48R-54R.

[2] S.D. Tomchek, and W. Dunn, Sensory processing in children with and without autism: a comparative study using the short sensory profile. Am J Occup Ther 61 (2007) 190-200.

[3] T. Itahashi, J. Fujino, T. Sato, H. Ohta, M. Nakamura, N. Kato, R.I. Hashimoto, A. Di Martino, and Y.Y. Aoki, Neural correlates of shared sensory symptoms in autism and attention-deficit/hyperactivity disorder. Brain Commun 2 (2020) fcaa186.

[4] J.D.S. Miyasaka, R.V.G. Vieira, E.S. Novalo-Goto, E. Montagna, and R. Wajnsztejn, Irlen syndrome: systematic review and level of evidence analysis. Arq Neuropsiquiatr 77 (2019) 194-207.

[5] M. Hitoglou, A. Ververi, A. Antoniadis, and D.I. Zafeiriou, Childhood autism and auditory system abnormalities. Pediatr Neurol 42 (2010) 309-14.

[6] 和田真, 発達障害者の感覚の問題に関する調査研究. 国リハニュース 365 (2019) 4-5.

[7] C. Brown, N. Tollefson, W. Dunn, R. Cromwell, and D. Filion, The Adult Sensory Profile: measuring patterns of sensory processing. Am J Occup Ther 55 (2001) 75-82.

[8] W. Dunn, and K. Westman, The sensory profile: the performance of a national sample of children without disabilities. Am J Occup Ther 51 (1997) 25-34.