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トピックス

発達障害のある人のつらい感覚の問題とそのセルフケア(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

発達障害のある人は、眩しい光やうるさい音が苦手とか、ざわざわしたところで聞き取りが難しいといった感覚の問題を持っていることが知られています。特に自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder, ASD)のある人は、実に60~90%の方が、このような感覚の問題を持つことが知られています[1, 2]。ASDのある人で問題となることが多いのは聴覚に関する問題です[3]。他にも、まぶしさや見づらさ(視覚の問題)、苦手なにおい(嗅覚の問題)や食の困難(味覚、触覚、嗅覚などの問題)、道具や身体の捉え方に関する問題(触覚・固有感覚・前庭覚の問題)、温度や痛みを感じにくい(温度覚・痛覚の問題)、体調不良を感じにくい(内受容感覚)など様々な感覚の問題が知られています。また、注意欠如多動症(Attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)や限局性学習症(Specific Learning Disorder, SLD; 学習障害とも呼ばれる)などの他の発達障害のある人も様々な感覚の問題を持つことがわかってきました。

 

感覚の問題の具体例とセルフケア

 国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害研究室と発達障害情報・支援センターでは、発達障害がある人が日常生活で困っている感覚の問題について、「困ったとき、どうしているか」についてのオンラインアンケートを実施し、分析をおこないました[4, 5]。代表的な感覚の困りごととセルフケアの例を紹介します(図1)。

 

図1 聴覚・視覚・触覚の困りごとと、そのセルフケア

 

聴覚の問題

 オンラインアンケートには、ASD、ADHD、SLDのある方が参加していましたが、日常生活上で最もつらい感覚の問題としては、聴覚の問題が過半数を占めていました。内容を分析したところ、1)泣き声や電子音といった高い音など特定の音が苦手、2)大きな音が苦手、3)突然生じた(ように感じられる)音が苦手、4)周囲の雑音など注目すべき音以外が大きく聞こえてしまい疲れる(以上が聴覚過敏)、5)たくさんの人がいる場所などで会話の聞き取りが困難(選択的聴取の困難)、といった内容に分類できました。つまり、お祭りの太鼓とか運動会のピストルの音などのように大きかったり突発的だったりする音に加えて、甲高い叫び声や電子音など高い音を苦手と感じることが多いようです。さらに駅や繁華街のような場所では、様々な音が耳に入ってしまい集中できない、疲れてしまう、あるいは、そういった場所では人の話し声を聞き取るのが難しいといった困りごとがあることもわかりました。
 これらの問題のうち、いわゆる聴覚過敏(音による苦痛や疲れ)に対しては、イヤーマフや耳栓、ノイズキャンセル機能付きのヘッドホンが、セルフケアとして広く用いられています。様々な雑音を取り除くのには、大きな効果を上げるため、重宝している人が多いようです。一方で、ノイズキャンセル機能の本来の役割として、人の声は抑制しないようになっているため、ほとんどの機種では、特定の人の話にだけ注意を向けるといったことには対応していないのが現状です。しかし、デジタル機器の進歩とともに、一部の「スマートイヤホン」では、特定の方向の音、人の声を選択的に強調する、といったことが可能になりつつあるため、会話の聞き取りにも大きな力を発揮してくれるようになるのではないかと考えています。もう一つの残された問題は、触覚過敏の影響です。聴覚過敏に加えて、苦手な触感や締め付け感に対する苦手がある場合には、自分に合ったデバイスを見つけるのに苦労することがしばしばあるようです。購入する前に、使用感がどうかなど、実機で試すことが重要と思われます。

 

視覚の問題

 ASD以外の発達障害のある人では、触覚に続いて視覚の問題が顕著であることがわかりました。具体的には、1)強い光やチカチカした光が苦手、2)様々な視覚刺激が同時にやって来るとつらい、3)色や形など特定の苦手なものがある、4)読みの困難、5)見え方の異常、といったものに分類できました。その中でも強い光やチカチカした光が苦手、つまり、まぶしさを強く感じる人が多いようです。この点に関しては、サングラスやカーテンで強い光を遮っている人が多いようで、物理的に光を弱めたり、遮断したりする対策が有効です。なお、サングラスについても、触覚過敏があると長くかけるのがつらいと感じている人がいるので、素材選びやかけ方(バンドの併用など)の調整が重要と考えられます。一方、見え方などの問題には、サングラスだけでは解決が難しいため、「見せ方」に関するユニバーサルデザインが重要となると考えられます。英国内務省は、ASDや難読症(LDの一種)のある人も含めて、ポスター制作時の視覚デザインについてのガイドラインを提供しています。
 なお、聴覚の問題も視覚の問題も、強い刺激(大きな音、まぶしい光など)や特定の刺激(高い音、原色の色)が苦手という種類の問題と、複数な刺激が同時にやってくることで混乱や苦痛が生じるといった種類の問題(ざわざわした環境で疲れる・聞き取りが難しい、ごちゃごちゃした場所で疲れる)に分けることができます。感覚の問題には視覚と聴覚で共通性があるようです。

 

触覚の問題

 ASDのある人では、聴覚の問題につづいて、触覚の問題を最もつらいと感じている人が多いことがわかりました[4]。その多くは、1)タグや縫い目がチクチクして苦痛と感じるなど服に関する問題(触覚過敏)で、続いて、2)水や粘土など苦手な触感がある、3)握手やハグなど他人との接触に対して苦痛を感じるといった問題などがありました。服に関する問題に対しては、タグを取り除く、苦手な触感の服は着ないなどの対策が可能です。最近では、特に子供服において、タグを付けず、印刷で表示項目を記載する商品も出てきているようです。一方、他者との接触に関しては、対処が困難である様子が伺えましたが、コロナ禍以降の「新しい生活様式」では、人との物理的接触を避けることが推奨されており、この点に関して、世の中自体が変わってきたところもあるかもしれません。

 

 さらにタバコや香水の匂いなど特定の苦手な臭いがあるなどの嗅覚過敏や、苦手な食感(厳密には触覚)を含む味に関する問題もあります。苦手な食べ物に関する問題(偏食)は、若年層で特に問題になることがあり、味覚だけでなく嗅覚・触覚・視覚の問題も複雑に絡み合っています。嫌いなものを食べることを無理強いすることは望ましくありませんが、反面、偏食を続けることは、低成長や生活習慣病のリスクを増やすことにつながるため大きな問題です。これについて、また改めて紹介させていただきたいと思います。

 道具を扱うのが難しかったり、体の位置の把握が難しかったりという身体に関する問題もありました。我々が行ったアンケートからは、身体に関する問題は、セルフケアでの対応が難しいということもわかっており[5]、研究において、今後の重要なテーマの一つであると捉えています。

 さらに、暑さ寒さを感じにくく、適切な服選びができなかったり、痛みに対する反応が弱く、肌をかきむしってしまったりするといった問題もありました。これらは、特定の感覚刺激を感じにくかったり、応答が弱かったりする感覚鈍麻の一種です。「日常生活のつらい感覚の問題」として、当事者本人の訴えは、必ずしも多くはなかったものの、暑さ寒さや体調がわかりにくいということは、熱中症につながったり、発熱や腹痛・歯痛などへの処置の遅れを招いたりといった深刻な健康リスクにもつながる重大な問題です。

 

個別の対応が必要な感覚の問題

 今回は、発達障害のある人が直面している感覚の問題の中で頻度の高いものと、それに対するセルフケアの例を紹介しました。その中で、聴覚に関する問題が多いことや、ASDのある人では触覚の問題も無視できないこと、そしてそれ以外の発達障害のある人では視覚の問題も顕著であることを示しました。このように全体としての傾向はあるものの、その度合には個人差が大きいことにも注意が必要です。さらに、発達障害の方が持つ感覚の特徴は、過敏や鈍麻だけではありません。感覚が鋭敏であることは、ある状況下では、過敏として困りごとになりうる反面、入力に忠実な感覚特性は、特技になり得る状況も考えられます。したがって、合理的配慮の際には、紋切り型の対応をすることなく個別のケースを考えることが重要です。聴覚過敏に視覚過敏が併存する人と、聴覚過敏に触覚過敏が併存する人とは適切な対応が異なりますし、過敏の度合いや内容によって柔軟に対応する必要があるからです。
 さらにいうと、特技でも困りごとでもないけれども、定型発達者とは異なる感覚の特徴も多数あると考えています。発達障害の当事者へのサポートを考えるうえでは、「感覚の問題」だけでなく、様々な「感覚の特徴」を踏まえた包括的な理解と支援が重要であり、基礎・臨床の双方から、さらなる研究が必要だと考えています。

 

 (国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 発達障害研究室長 和田真  [E-mail]wada-makoto@rehab.go.jp) 

   

 

  1. Marco, E.J., et al., Sensory processing in autism: a review of neurophysiologic findings. Pediatr Res, 2011. 69(5 Pt 2): p. 48R-54R.
  2. Tomchek, S.D. and W. Dunn, Sensory processing in children with and without autism: a comparative study using the short sensory profile. Am J Occup Ther, 2007. 61(2): p. 190-200.
  3. Hitoglou, M., et al., Childhood autism and auditory system abnormalities. Pediatr Neurol, 2010. 42(5): p. 309-14.
  4. Wada, M., et al., Qualitative and quantitative analysis of self-reported sensory issues in individuals with neurodevelopmental disorders. Front Psychiatry, 2023. 14: p. 1077542.
  5. Wada, M., et al., Qualitative and quantitative analysis of self-care regarding sensory issues among people with neurodevelopmental disorders Frontiers in Child and Adolescent Psychiatry 2023. 2: p. 1177075.